聴診器




ずいぶん昔のことになるが大枚をはたいてりっぱな聴診器を手にした。おのれの技量不足をせめて金銭でおぎなえることができれば、との思いと、首にさげたりっぱな聴診器を見て患者がだまされれば、との思いで購入したのだが、その聴診器が最近ヘタって来た。劣化のためゴムの部分が硬くなってきたのだ。
通常、聴診器の管は柔軟で、身体の凹凸に関わりなく、聴診するときにはこちらの姿勢をそれほど変えることなく患者が体内で発する音を聴くことができる。聴診器の軸が自由に取れるからそれが可能になるわけだが、固くなった聴診器では事情が違う。聴診器を当てるいろんな方向に対して、まるで塗り壁に向かう左官のように、その都度こちらが姿勢を変えなくてはいけないのだ。こんなことではだまされていた患者に疑念を抱かせることになるし、そもそもこんな自由軸を失った聴診器で聴けるのは sound of 無軸 でしかない。

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電子カルテ管理運用規定

厚生労働省が示した電子カルテのガイドラインには電子カルテを使いたければそれぞれの医療機関で管理運用規定を決めろと書いてある。お上の言葉は神のお告げ。逆らったらカミナリに打たれるに違いないく、さっそく雛形にそって作ってみたがどうも釈然としない。
もちろん患者の個人情報が絡むことなので慎重な上にも慎重な運用が必要なことは理解できる。缶ビンのゴミ出し日にゴミ袋の中の大量のビール缶をいつも他人の目につかないよう工夫している者としてはあたり前のことだ。問題はその雛形の「電子保存に関する理念」の項目にある”自己責任の原則”という言葉だ。
みことのりはかくの如しだ。
「電子保存システムの管理者及び利用者は、電子保存が自己責任の原則に基づいて行われることをよく理解しておかねばならない」
お上は電子カルテには真正性、見読性、保存性という3大原則が必要だとしている。だが、そのやり方にはいずれも決定打がないようで、仮にあったとしてもいくつものベンダーが市場に参入している現状では号令をかけることには無理がある。
ということであとは自分で責任をとってね、という御神託なのだ。
うまく隠したつもりの大量のビール缶がご近所の人目に触れれば、すべての責任はこのおやじにある。それは分かる。だが、もし電子カルテのシステムの不備で問題が生じたらそれも医療機関が負わねばならないのかと思うと、少しばかりの不満が残る。
それを覚悟で電子カルテを使いなさいというわけなのだろうが、ほとんどの医療機関ではプログラムどころかデータがどう動いているかさえ把握することもできなのが実情ではないだろうか。つい最近も大手中の大手の電子カルテが紹介状の薬剤がほかの患者のものに変わっていたという事件があったばかりじゃないか。中小のベンダーさんにいたってはバグがあって当たり前のような気がするのだ。
どの電子カルテが正確に稼働するかは分からず、いわば医療機関の電子カルテの選択は運任せ、というわけだ。
ということで電子カルテの管理運用規定は管理”運”用規定と名前を変えた方がいいのではないかと強く思うのである。
なおついでだからうちの規定とカルテ仕様のたたき台を載っけてみた。

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電子カルテ

数ヶ月前、電子カルテを自作するにあたって展示会を訪れたことがある。電子カルテを作ろうと思い立ったのはいいが、電子カルテをみたことがなかった。いくらなんでも情報が少なすぎると、ときどき送ってくるこの手のDMの案内に従って、日曜日に会場へ足を運んだ。ビルの一室にある3社が協同で開催しているという会場の入り口に立つと、その場に居合わせた20-30人ほどのスタッフの視線が一斉にこちらに向けられた。半数以上のスタッフは机について弁当を開いている。ほかに誰も見学者はいないようで昼休みかとも思ったが、手にしたDMにはそんな時間制限など書いてなく、かまわず足を踏み入れた。

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ハッシュ値

ここ数ヶ月カルテの改竄について考えてきた。日々の診療の不手際をカルテに手を加えることでごまかすことは、もちろん絶対にやってはいけない禁じ手だ。もしやってしまえば社会的にとてもきつい責めを受けることになる。だからやったことはない。仮にやるとしても一目でわかるようなやり方ではしないだろう。それでも詳しく調べれば手を加えた箇所の筆圧とか筆跡とかで判別できるはずだ。だからやったことはないにもかかわらず、気が気でない。
とはいえ改竄について考えを巡らせていたのはそれをしようという訳ではないのだ。それどころか改竄をしていないことをいかに証明できるのか、ということを考えていたのだ。

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